●慕嬢詩『娘の絵』





 長い間使っていなかった3階の部屋にある棚を整理していた妻が「あんた、こんなん見つけたよ」と、十数冊のフォトブックを私の所へ持ってきた。
 各地の遊園地、水族館、動物園、ハイキング、海水浴、花博、おばあちゃんとの旅行、いとことの家、運動会、友達とのショット、愛猫を抱いている写真…。
 何十年も目にしていなかったフォトブックを、妻と一緒にページをめくりながら、「この時はこうやったな」「こんな所にも行ったな」と、写真の中の瞳に語りかけるように、昔話に花を咲かせた。
 仕事人間だった私は、あまり娘のことを構ってやれなかったと思っていた。ところが、写真を一枚一枚めくっていると、そこには娘と過ごした父親としての日々が、思いがけないほどたくさん残っていた。
 「俺も、ちゃんと父親してたんや」…そんな思いが、胸の奥からじんわりと込み上げてきた。
 そして、次から次へとページをめくっていくうち、私は初めて見る二枚の写真を見つけた。小学校4、5年頃の瞳が、学校で描いた絵を手にして写っている写真だった。
 一枚は菊の絵、もう一枚は住吉大社の太鼓橋の絵。特に菊の絵は、小学生が描いたとは思えないほど見事な出来映えだった。
 妻が「あんたに似て絵が上手かったんやなあ」と関心。「ああ…俺の血を継いでたんや」と思うと、また胸が熱くなった。
 けれど、その二枚の絵は、瞳の遺品の中にはなかった。いったい、どこにあるんやろ。写真だけを残して、絵そのものはどこかへ消えてしまった。
 それでも、今まで知らなかった娘の才能を、何十年もの時を越えて、今日初めて知ることができた。
 瞳が残してくれたのは、絵の写真だけではなかったのかもしれない。
 ページをめくったその日、私は写真の中の幼い瞳と再会し、そして思いがけず、娘の中に流れていた自分の血まで見つけた。
 どこかに眠っているかもしれない二枚の絵。いつかまた、ひょっこり見つかる日が来るだろうか。

 ※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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