hitomi's poem |
hitomiの詩 part62 指 先日私が入院をした時に、妻は病室のベッドの脇に座り心配そうな顔をしていた。 私は退屈するベッドの上で白い天井を眺めながら、同じような光景を思い浮かべた。 あの時、病室のベッドの脇で私は、深く静かに眠る瞳の左手を握りながら気をもんでいた。 私と同じように瞳の右手人差し指には、医療機器のコードに繋がれたクリップが挟まれていた。 人工呼吸器のマスクで瞳は話せず、会話が出来ないもどかしさをこんなに感じたことはない。 看護師が用意した50音ボードの文字を、指で差しながらコミュニケーションを図るも上手くいかず。 瞳の歯がゆくて寂しそうな顔、弱々しくこちらを差したあの時の指を、ふとした時に思い出す。 幼い頃の瞳とした綾とり、折り紙、指切りを思い描いては、その冷たい指に私の指を絡めた。 長く細いしなやかな指、その白い指先に触れる度に、愛おしさが込み上がり胸を締めつける。 上手くなりたいと練習でギターを爪弾く器用そうな瞳の指は、なんとなく私の指と似ていた。 この指でこの手で夢を掴んでくれたら、父親としてどんなに喜ばしいことだったろう。 「入院してから5週間か」 私は瞳の指を広げてから、「ひとつ、ふたつ、みっつ…」と5つ指を折った。 かなり痩せたみたいで、右手首の氏名などが記された白いリストバンドがゆるくなっている。 早く良くなって欲しいと祈りながら、握り返すことのない瞳の手に指を絡めてギュッと握った。 あれから8年、ベッドの脇の妻は「早く良くなって」と私の回復を願っていた。 一句:遠い日の 指の感触 懐かしい |
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hitomiの詩 part61 星空 | ||
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