hitomi's poem

hitomiの part27(横断幕)

店の奥の壁に瞳の似顔絵を描いた横断幕が張ってある。
そして『星空に輝け!10000ボルト、瞳(娘)と父!』と書いてある。
NHKのど自慢・チャンピオン大会の時に兄に作ってもらったものだ。

あの時、私はNHKホールのステージで緊張の頂点に達していた。
生まれて初めて生のフルバンドをバックに憧れのステージだ。
そして満員の観客とゲストや審査員の豪華な顔ぶれに萎縮した。
唄う前の曲のタイトルを告げる時には頭の中が真っ白だった。
テンポが外れないか?歌詞を間違わないか?胸中に不安がよぎった。
歌が中盤に差し掛かってから徐々に客席が見えるようになってきた。
そして兄夫婦がこの横断幕を振って応援してくれているのが見えた。
瞳も「お父さん頑張ってや」とエールを送っているように感じた。
お陰でパワーをもらったみたいで自分を取り戻し無事に唄い終えた。
司会の宮本アナウンサーは横断幕の瞳の似顔絵を見て私に言った。
「お嬢さんの絵を横断幕にお描きになったのは有村さんなんですって?」
私は「そうですね、いつまでも心に刻みたいと思いまして…」と返答した。
宮本アナは「前川さん、いかがですか」と歌手の前川清さんに振った。
前川清さんは「そうですね、綺麗ですね」と絵を見ておっしゃったので、
私は余裕が出てきて「少し綺麗に手を付け加えました」とおどけて応えた。
審査員の作曲家・徳久広司さんは「娘さんに届いたと思います」と述べた。

その思い出深い横断幕は今は店の奥の壁に張っている。
淋しい時、挫けそうになった時、その横断幕の瞳を見る。
するとNHKのど自慢での数々のシーンが脳裏によみがえる。
そして頑張った自分、応援してくれた娘や周りの人が目に浮かび、
「瞳のためにも挫けたらアカン、もっと輝こう!」と私は奮い立つ。


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