娘のボーイフレンド…
対面する時が、父親として一番複雑な気持ちになる瞬間だ。
もう、10年と少し以前のことだった。
娘が16歳の時、家に初めてボーイフレンドを連れて来た。
突然の訪問に心の準備が出来ていなかった。
戸惑いと緊張、何を話していいのか、思考回路が直ぐに反応しない。
しばらく間をおいてから「お腹が空いてないか?」
私はすでに夕食を済ませていたが、その言葉しか出てこなかった。
彼氏のほうをチラリと見ながら「うん」と娘。
それではと、近くのレストランへ連れて行った。
黒いTシャツが似合う日に焼けたスポーツマンタイプの好青年だ。
娘達がオーダーした料理が並んだテーブルを挟んで会話を始めた。
私はホット・コーヒーにフッと一息吹きかけ一口含みノドを潤す。
「年は?」「どこに住んでるの?」「趣味は?」「どこで知り合ったの?」
会話というより、彼にとっては尋問(ジンモン)みたいだったかもしれない。
それでも次から次に繰り出す私の質問に素直に答える、高三の彼。
娘は私の矢継ぎばやに浴びせる質問にやや迷惑そうな顔をしていた。
第一印象は合格。面接試験も合格だ。しかし、何か不安が胸をよぎる。
“大丈夫やろか?”
深く考えても仕方がない、二人とも若いんだから。
いろいろ経験を積んで勉強すればよい…、そう、心に言い聞かせる。
あれこれ会話をしながら、自分にもこういう時期があったのを思い出していた。 |