昨年の残暑かすかな早秋の夜、私達は中百舌鳥にあるレストランに行った。
なかなか洒落ていて、店の片隅のピアノ演奏がやすらぎをかもし出す。
魅惑のムードの中、手作りの器で自家製のハムや店自慢のステーキに舌鼓(シタツヅミ)。
「もうすぐ瞳の誕生日やね、こんな所で一緒に食事をして祝ってあげたかったな」
と妻と話したり、また色々と瞳の生前を偲(シノ)んでしっとりと会話をした。
ゆっくり時(トキ)を味わっている私たちの空間に“Jupiter”のメロディーが流れ出した。
美しいピアノの音色に私は手を止め耳を傾けた。瞳の好きだった曲で面影が浮かんできた。
しばらくの間、ファンタジックな調べに聴き入った。遠い空の彼方の星になった娘を心に描きながら…。
私の目には涙があふれ出て、テーブルのキャンドルライトがぼやけて見えてきた。
ちらっと前席を見やると妻の目にも感傷の涙で光っていた。
以前は若い人たちの音楽は有線で流れていても、店でお客さんが唄っていても気にも止まらなかった。
しかし、今は違う。娘の気持ちに少しでも近づきたくて興味を示すようになった。
“Jupiter”は昨年の瞳の一周忌の時に娘の親友が唄ってくれ、そして娘の好きな曲だったと教えてくれた。
それ以来、この曲を耳にするとグッと胸がこみ上げてくるようになった。
カーステレオでこの曲が流れると車を脇に止め、目を瞑(ツム)り静かに聴き入る。瞼の奥で温もりを感じながら…。
私は自分の店で、若い女性のお客さんが来るとカラオケでこの曲をリクエストしては目を潤ませている。
そしてまた、娘を亡くした深い心の傷を癒している。 |