hitomi's poetry
想い出綴り−65 助手席

cici
先月、私は古希を迎えた。
運転免許証を返納しようか迷ったが、商売をしているので仕入れの時にどうしても車がいる。
年寄りの運転での事故が多く危ないからと妻はうるさく言うので、週に一回の仕入れ以外は車は乗らない様にした。
週一の仕入れだけでは車の維持費が勿体ないのでマイカーを手放し、今は必要な時だけ乗れるカーシェアを利用している。
私は無類のカーマニアで50年間、十数台もマイカーを乗り換えていただけに、さすがに手放す時は寂しかった。
その血を継いだのか、瞳も車が好きで18歳になって直ぐに運転免許証を取得して軽四輪車を所有した。
瞳が免許を取り立ての頃は運転の練習の為に、私はしばしば助手席に座ってアドバイスをしていた。
車好きの私はほとんど助手席に座った事が無く、免許取り立ての娘の助手席に座ると左側がぶつかりそうで冷や冷やものだった。
当初は緊張してガチガチだったハンドルさばきも、慣れてきたら余裕なのかタバコを片手に運転をする様になった。
娘が運転に慣れてきてからはほとんどその車には同乗しないが、彼女の所用の時には何度か助手席に座った。
車内の煙草の臭いを消すために、エアコンの吹き出し口に消臭剤を取り付けている。
柔らかな香りに包まれて世間話をしていると、娘の成長を喜ぶとともに安堵感を覚えた。
初夏の風景が目に留まり助手席のウインドウをゆっくりと開けると、柔らかな風が頬を撫でた。
あれからもう14年になるのか。




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