●慕嬢詩『蝉時雨』![]() 昨日までは気づかなかったセミの声が、今朝からセミの大合唱が始まった。みんなで申し合わせたかのように一斉に。 蝉時雨を耳にするたび、闘病中だった娘のことを思い出す。 白く静まり返った病室。そこは、言葉では言い尽くせない思いが、静かに交錯する空間。 会話も出来ず、眠り続ける娘の枕元に座り、細くなった指先へそっと自分の手を重ねる。 何も語らなくても、そのぬくもりだけが親子をつないでいた。 窓を開けると、庭の木にとまったセミたちが、大きな声で激励してくれている。 娘へ「頑張れ」と励ましてくれているようにも、「生きて」と祈ってくれているようにも聞こえた。 しかし、その願いもかなわず、娘は闘病一か月余りで、旅立った。 蝉の命は短く儚いと言われるが、娘も25才での他界はあまりにも短すぎる。 今、自宅の横の遊歩道に立つ桜の木で、今年も蝉時雨が空気を揺らすように降りそそいでいる。 その声を聞くたび、病室で白く冷たい娘の手を、ただ握りしめることしかできなかった、あの日の夏が胸によみがえる。 蝉時雨は、私には今も、娘を偲ぶ夏の祈りのように聞こえる。 |
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