自宅ベランダの真下には、川に沿った遊歩道がある。そこに立つ大きな桜の木は、まるで千手観音の手のように幾本もの枝を広げている。
枝先には、春の訪れをそっと知らせるように五分咲きの花が、ちらほらと淡く色づき始めている。
ベランダから桜を眺めていると、遊歩道から見上げていた人とふと目が合った。彼女は少し気恥ずかしそうに微笑みその場を離れた。
またスマホをかざして写メに収めている人や、桜の木の下のベンチで弁当を広げている人もいた。
そんなささやかな光景も、春のやわらかな光の中では、どこか穏やかな出来事に思える。
右手に目を向けると、橋の上で足を止め桜を眺めている人の姿もあった。待ちに待った桜を人それぞれの思いを秘めて、愛でている。
まだ花で埋まりきらない枝のすき間からは川の向こうがよく見える。冬から解き放たれたように、カラフルな春の装いの人たちが歩いている。
ついこの前までの寒さが嘘のように、空気はほのかに暖かく、時間もまたゆったりと流れていく。
娘が健在だった頃はこの遊歩道はまだ整備の途中で、植えられた桜の木々も成長の途中だった。
あれから年月が過ぎ、木はすっかり大きくなった。もうすぐ満開になるであろう枝ぶりを眺めていると、ふと、あの春の日が脳裏に浮かんだ。
咲き始めた桜の下で、娘と写真を撮ったことがあった。風が少し冷たく、それでも空は明るく、笑顔だけがはっきりと残っている。
そんな遠い記憶をたどりながら、しばらく桜を眺め続けていた。
※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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