●慕嬢詩『ひな祭り』




 三月に入ると、空気のどこかにやわらかな光が混じりはじめる。春を呼ぶひな祭りの季節だ。
 今の家に移る前は5DKで、部屋に余裕があったので七段飾りのひな壇をどんと広げて一部屋を陣取っていた。
 赤い毛氈(モウセン)の上に並ぶひな人形たちは凛として華やかで、その前にちょこんと座る娘の笑顔が、何よりの主役だった。
 「すこやかに育ちますように」と願いを込めて、桃の花を飾り、ひし餅を供え、米麹でできた子供用の甘酒を用意する。けれど娘は、つぶつぶとした食感が苦手で顔をしかめる。
 ひなあられを一粒つまんでは、ぼんぼりの灯りを見上げて笑った。そんな他愛ない仕草の一つひとつが、春の宴をいっそうあたたかくしてくれた。
 今は娘がいなくなり、大きな七段飾りは知人に譲って目にすることは出来ないが、三月の風が吹くたびに、あの赤いひな壇と、そこに座っていた小さな笑顔を思い出す。
 季節は巡り時は流れて、娘が手の届かない所に行っても、娘の幸せを願う気持ちはあの頃と変わらない。ひな祭りは、わが家にとって、春とともにやさしい記憶を運んでくる大切な節目なのである。

 ※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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