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海開きのニュースを耳にすると、私の胸の奥に遠い夏の日の風景がよみがえる。
亡き娘がまだ幼かった頃、夏になると近くの市民プールへ手を引いて出かけた。
小さな体で水しぶきをあげ、目を細めて笑う無邪気な姿。その笑顔に、私の疲れや悩みはすべて溶けていった。
遊園地のプールでは、浮き輪の中でプカプカと波に揺られながら、娘が「パパ見て!」と手を振っていた。その弾んだ声が今でも耳に残っている。
そして一度だけ訪れた南紀白浜の海。白い砂浜、果てしなく続く青い水平線。浮き輪を使って泳いだり、波打ち際で波と戯れたり、小さな貝殻を宝物のように握りしめて喜ぶ娘の姿。
その柔らかい髪、日焼けした小さな手。あの夏、強い日差しに照らされて輝いていた娘の瞳は、今も胸の奥で消えることなく光っている。
いつしか大人になり、病に倒れ、静かに旅立った娘。だが夏が来るたび、私の中で娘はあの頃のプールで笑い、海で砂を踏みしめる小さな命の輝きとして生きている。
海開きが告げるのは、ただの季節の移ろいではない。私にとって、それは娘と過ごしたかけがえのない時間が、今も確かに心の中で息づいているという証なのだ。
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※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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