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午前10時頃、太陽を背に受けて散歩していると妻が「アンタの方が私より小顔やなあ」と言った。「俺の方が背が高いので遠近法で小さく見えるからや」。
私と妻とは身長が20cm違う。背が高いほどその差が出て妻より私の影が遠くに映り、それに応じて顔が小さくなる。
散歩は港を囲んだU字型の遊歩道を往復するので、道すがら前から横から後ろから日差しを受け、その時々で影が前後左右に移動する。
影は朝と夕方などの時間帯や季節によっても大きさや位置も変わるので興味深い。
「日時計は太陽の動きによって変わる影を利用してて、人類が一番最初に作った時計やねんで」「へえ、そうなんや」。
そういえば娘が初めて影の存在に気付いた幼少の頃、晴れた日の散歩中にずっとくっついてくる自分の影に泣き出したことがあった。
どこまで逃げてもピッタリついてくる正体がわからない黒い怪物の姿に、影を知らなかった女の子には怖いかったに違いない。
不気味な姿に後ずさりをするも、影はどこまでも追いかけてくるので、娘がたまらず泣き叫んで私のところに逃げてきて抱っこを要求。
私は抱きかかえながら「大丈夫やで、影は怖いことないで」と優しくあやした事があった。
影を完全に認識してからは、不思議に思いつつ大きくなったり、小さくなったり、でも決して離れず着いてくる影と遊んでいた。
私は影を初めて見た時のことをあまり覚えていないが、好奇心旺盛な男の子だったので、恐れはなかったような記憶がある。
※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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