慕嬢詩 『人生朝露の如し』

朝の空気が、肌を突き刺し
朝の露が、草花に降り白く光る
知らぬ間に気づかぬ間に、時節は冬隣
ゆく秋に、ちょっぴりセンチな黄昏(タソガレ)時
妻と歩いた公園のメタセコイアの並木道
何も喋らずに、足元の落ち葉を踏み
サクサクサクと、乾いた音をたてた
濃い橙色に染まったトンネルに
冷たい風が通り抜け、木の葉を巻き上げて
大空に高く舞い、遠くへ飛び去った
その彼方にいる、あの子に届くかな…
同じ思いの妻と顔を見合わせて
夢を果たせぬままこの世を去った
若かれし頃の娘に思いをはせた
「瞳の人生は朝露のごとしやったね」
「そうね」と妻は小さくうなずいた
※人生朝露(ちょうろ)のごとし=朝日が出ればすぐに消えてしまう朝露のように、人生ははかなくて短いものだということ。
※冬隣(ふゆどなり)=まわりの景色や雰囲気から、冬の近づいた気配が感じられる晩秋のころ。
※メタセコイア=中国原産でヒノキ科メタセコイア属の落葉樹。和名はアケボノスギ、イチイヒノキ。自宅近辺では三宝公園に並木がある。
※慕嬢詩(ボジョウシ)=亡くした娘を慕う気持を綴った詩・文。私の創作語。
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