hitomi's poem
 hitomiの(うた) part4(葬送)


華やかな祭壇の 花に囲まれた 君の写真 寂しそうに微笑む

棺の中の君の うっすらきれいに 死に化粧

ほんのりした薄紅色が 今にも起きてきそうな錯覚に
君の頬に手を差しのべ 愛をこめ そっと()でる
声をかけると 返事がありそうな ほのかな望みが 脳裏(のうり)をよぎる

僧侶 一礼の後 粛々(しゅくしゅく)と お経を始める

自分が座る 喪主の席 違和感を 禁じ得ない

次第に 私の目に 熱いものが こみ上げてくる

君の写真 ゆがんで見える 周りが ゆがんで見える

親族に続いて 次々と焼香をする友人達 沢山いたのには驚いた

説法後の 挨拶の原稿 涙で文字が 読みづらい

悲しさがつのり 言葉が詰まりそうになる


棺の中の瞳の周りに 花を添え 遺品を入れる
もう還らない 無言の寝顔 周りから嗚咽(おえつ)が漏れる
私は肩をふるわせ 数珠(じゅず)をちぎれんばかりに握り締め

こぼれ出そうな 熱いものを ひたすらにこらえ ただ立ち尽くす

棺の中の瞳に 「かんにんな、また会おな」 涙混じりの声をかけた

妻は泣きながら 瞳の名を呼び 身をゆすり 打ちひしがれる

もう、瞳に触れられなくなる もう、見る事も出来なくなる


男性たちが棺をかかえ ストレッチャーに乗せる

周りには会葬の方々が お見送りに集まった

係官の押す ストレッチャーが動き出し 渡り廊下を しずしずと進む
ガラス越しの中庭の 池の水面(みなも)が 日差しを浴び 不気味に静か

5分ほどかけ 火葬室に到着 これで瞳とも 本当に最後の別れ

火葬炉の扉が 冷たく乾いた音をたて 閉じられた

走馬灯の様に 瞳と過ごした日々が 頭の中を駆け巡った

瞳の最期の姿が 止った時 『ひとみーっ!』 大声で泣き叫んだ

妻はその場に崩れ落ち 狂った様に泣き叫び続けた

二度と戻れる事の出来ない姿になって 火葬炉から運び出された瞳

手を震わせながら 少しずつお骨を拾い 壺に納める

何度もさすってあげた手の骨は しっかりとした 真っ白な骨だった

最期まで見届ける 知人・友人の列の中を

妻が位牌とお骨を抱え 姪が遺影を持ち 車に乗る

「皆さんありがとうございました」 頭を下げ 斎場を後にした


※ストレッチャー【stretcher】
本来は患者を移動させる車輪付きの簡易ベッド。ここの斎場では荘厳にしつらえ、棺を載せて火葬場へ移動する




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