東京…
私は去年の3月に東京へ行った。30年ぶりだった。
渋谷で目にした大勢の人並み、堺との大きな違いに驚いた。
堺の繁華街の1年分の人並みが一挙に集まった感じだった。
このひしめく雑踏を見ながら、ふと瞳の言葉を思い出した。
生前、瞳は「東京で住みたい」と私に言った事があった。
理由を聞くと彼氏が東京に行って住んでいるからだとか。
また、「東京へ行って本場のダンスを習って極めたい」とも言った。
そう言えば、普段から「ダンスで目立ちたい」とよく口にしていた。
夢を追いかける事はいいのだが、遠く離れて暮らすのは不安だった。
また「東京という巨大な魔物に一人の小娘では呑み込まれてしまう」。
そう判断した私は、心配だからと娘の「東京行き」を反対した。
(本当は私自身が寂しいのもあった)
詳しく話を聞いてみると…
瞳には彼氏がいた。しばらく続いた二人の愛の暮らし。
しかし若い彼は仕事に希望を託して東京へ行った。
日にちを置いてから瞳も行くが、彼には東京で新しい彼女がいた。
その彼女というが、瞳の親友だったとか。大阪での…。
衝撃と悲しみにうちひしがれた瞳は寂しく新幹線に揺られて大阪に戻った。
幾日も眠れぬ夜を過ごすうちに「二人を見返したい」と思う様になってきた。
そして、瞳は東京行きを決意したらしい。
私は「東京というところはそんなに甘ないで。思うようにはいけへんで。
彼とは縁が無かったんや。遅かれ早かれ別れてる。はよ別れてよかったやん。
父さんも近くにいてるし、こっちで頑張りや」と諭した。
瞳は「うん」と返事をしたものの心持ち納得していない様子。
寂しそうな眼差しでフッと窓の方に目をやったのを思い出した。
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