第十話 針千本
 ある村に片思いの男がおった。磯のアワビのなんとやらで、惚れた
女は金持ちの男に嫁入りすることになってしもうた。
 悲しんだ男は、七日七晩考えると、相手の男を呼び出して聞いた。
「お前、あの娘ば嫁にもらうってな」
「んだ、それがどうした」
金持ちの男は、得意げに鼻をひくひくさせた。
「そんだな、お前は何も知らんのだな」
「なんだ、あの娘、何か悪いことでも隠しているだか」
「隠すどころではねえ。あの娘のあそこの毛は針千本みてえにはえ
とるって評判だ」
それを聞いて、金持ちの男はびっくりして。
「驚くことねえ。おれがいいこと教えてやるでも、ただでは教えねえ。」
「んだ。わかったお前の云うだけ銭コをやるだに教えてくれ」
「んだな、約束したぞ。祝言あげて床入りの時、すぐあれをを入れたら
あかん。あれの変わりにひざっ小僧を出したらええ」
 次の日男は、惚れた娘を呼び出して云うた。
「おまえ、あの金持ちの男のことさ知らねえな。知らねえから嫁に行く
んだべ」
「それ、なんだ。あの人に女でもいるんちゅうのか」
 女が心配顔になって聞くもんで男は云うた。
「んだら、教えてやる。あの男の一物は馬どころでねえ、掘っ立て小屋
の丸木ぐれえの太さだという評判だ。そったら大きいもんを入れたら
お前、命いくつあっても持たねエ。初夜の時に針山を布団の下の隠し
ておいて、太か大きいもんを入れてきたら思いきり針山でついてやれ」
 それから話はとんとん進んで祝言となり、いよいよ初夜の床入りとな
った。
 娘は男に云われた通りに針山を布団の中に隠して持ち構えておっ
た。相手の男も自分の一物に傷でも出来たら大変と教えられた通り
に床入りしてもすぐに抱かずに、そろりとひざっ小僧を差し入れた。す
ると、娘は持っていた針山を力一杯、押し付けたからたまらない。男
は、ヒェーと云って飛び出していった。
 娘も金持ちの男も、なるほど評判どおりだと、その日のうちに別れ
てしもうた。
 男は、金と惚れた娘とをもらってしまったということじゃ。
            

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