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心の“Jupiter”いつまでも 
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 「天国の娘に、お父さんは頑張ってるでというところをみせたいと思い唄いました」。
 NHKのど自慢堺大会で57歳の私が“Jupiter”を唄ってチャンピオンに選ばれた時の感想で、私は目に涙を浮かべ上ずりそうになる声をこらえながらそう応えた。
 娘が25歳で急逝してから一年半経った頃、娘の友達にいつまでも覚えていて欲しいと開いていたホームページは時の経過と共に訪れる人が疎(マバ)らになり、私は焦りを感じていた。
 何か手を打たなければと思っていた矢先、一昨年12月に堺市広報で「NHKのど自慢」の出場者募集記事を目にした。「これや!」出場すれば絶好のネタになると感じた。
 さて選曲は?出るからにはトップを目指したい。得意の歌謡曲なら多少は自信がある。
 しかし待てよ。娘の好きな曲を唄った方が娘が喜ぶし友達にも伝わる。う〜ん・・・。選曲は応募締切り日のギリギリまで迷った。
 “Jupiter”は娘の好きな曲と知ってから耳にすると心の奥に響く様になった。だが苦手なジャンルなので唄った事がない。
 色々考えているうちに順位も大切だが天国の孤独な娘に聞いて欲しい!娘に喜んでもらえる様に頑張ろう!と思う様になり畑違いの曲にあえて挑戦する事にした。
 また得意な曲よりも苦手な曲の方が努力のし甲斐があるし、その課程がドラマになるのでホームページの材料に適すると考えた。
 昨年の1月、応募紙を投函した日からドラマは始まった。知人に貰った平原綾香のCDを聞く。彼女の曲は数ヵ所が二重奏になっていて上で唄うのか下で唄うのか分からない。それに音域が凄く広い。偶々(タマタマ)見たテレビで合唱団がこの曲を唄っていた。タイトル通りに神秘的な宇宙をイメージさせ、女性の美しい澄んだ声がマッチしていた。女性向の曲だ。私には到底マネは出来ない。自分のスタイルでいこう!と開き直った。
 練習はカラオケで。そして音域をカバーする為に高音と低音の限界まで発声訓練をした。「アー、アー」と声が裏返るまで発する。「ウー、ウー」と低く喉を響かせて唸(ウナ)る。妻が驚くと思ったので彼女が入浴中にした。
 初めて人前で唄った時は「へたくそやな」と云われた。後日、別の人に聞かせたら「もう一つや」と反応が悪かった。妻にいたっては「アンタにはむいてへん、やめとき!」。
 けなされると燃えるタチ。予選までの一ヶ月間、試行錯誤の末にどうにかモノにした。
 寝不足と苦手曲での挑戦で自信は無かったが、この努力が娘に伝わればいいとの思いを込めて予選に出場。みんなが自信を持って唄っている様に見えた。私はカラオケと違う伴奏に戸惑ったがなんとか予選を通過した。
 本選はレベルが高く優勝は無理と思っていたが、運良くチャンピオンの楯を貰った。
 娘が私にくれた大切な曲、自分の為、娘の為にいつまでも唄い続けようと心に誓った。

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