『痛惜のきわみ』

 22日の金曜日の夜に自宅でくつろいでいると、時短要請解除で25日から店を開けるのかどうか、お客のFさんから問い合わせの電話があった。
 「一応、月末まで休んで11月から営業を再開します」と伝えると、「ところでマスター、Sさんが2週間前に亡くなったん知ってるか?」
 「え~っ、Sさんが?知らんかったわ」「Sさんの元嫁から電話があってん」「明日、家に手を合わせに行くわ」
 「それが、Sさん一人暮らしやったやろ。奈良いる彼の姉さんがマンションを引き払(ハロ)たらしいわ」
 「ほんだらお墓は?」「元嫁も離婚してから姉さんとは疎遠やったから詳しい事は聞いてないらしいねん」 
 Sさんは私が堺に来た時から50年以上の親友で、私が商売に失敗して困っている時にバイト先を何度か紹介してくれた。
 そんな縁で私が42歳の時、彼の再婚時に仲人をした事がある。が、20年後に離婚をしてずっと一人暮らしだった。
 Sさんの元嫁は離婚して以来、私とは疎遠だったので訃報を知らせにくく、彼女の同級生でありSさんの親友でもあるFさんに連絡をしたと思う。
 前々妻との間の子供とはずっと会えずにいるSさんは私の娘を可愛がってくれ、また娘が亡くなった時にはかなり心の支えになってくれていた。
 そんな彼は6年ほど前から肺癌、胃癌、肝臓癌、糖尿病などと闘っていて、時々当店に来ては気晴らしをしていた。
 また私の妻も時々電話をして彼の気分をほぐしたりして気に掛けていただけに、彼の訃報を聞いて悲しみに暮れた。
 「もっと電話をしといたらよかった」「一人ぼっちで死んで、Sさんが可哀そうや」と涙ながらに悔やんだ。
 コロナが無ければきちんとお別れが出来たのに、コロナ禍のため葬式はごく内輪だけで、その後も手を合わせる手立てがない。
 娘が「Sのおっちゃん」と慕っていた大親友の彼と、突然のこのような別れになるとは思いもしなかっただけに、痛惜のきわみである。
 
※痛惜(ツウセキ)のきわみ=きわめて悲しみおしむこと。ひじょうに残念に思うこと。


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