●ABC『誘拐の日』


 主人公・新庄政宗(斎藤工)は、心臓病を抱える娘・芽生の手術費用をどうしても工面しなければならず、妻の汐里(安達祐実)の提案で裕福な病院長の娘・七瀬凛(永尾柚乃)の誘拐を計画する。だが、実際に行動に移す段で政宗は逡巡し、妻からの強い指示に背中を押される形で院長宅に車を走らせる。ところが、凛が飛び出してきて気を失うという思わぬ出来事が起き、目を覚ました彼女は記憶を失っていた。「私は誰?」という問いに、新庄はとっさに「私がお父さん」と嘘をつき、偽りの親子として逃避行を始めることになる。さらに、身代金を要求しようとするも凛の両親には全く連絡がつかないことに疑問を抱き、凛の自宅を訪ねるとなんと両親は殺害されていた。新庄は誘拐犯だけでなく殺人の嫌疑もかけられることに。凛は多言語を操り、鋭い知性を持つ“天才少女”であり、彼女を狙う謎の勢力も現れ、逃亡劇は意図せぬ展開へと進んでいく。政宗と凛の間には、次第に偽りではあっても“父と娘”のような関係性が芽生えるが、事件の核心に迫るにつれて、真相、陰謀、過去の秘密が少しずつ明らかとなり……。最終回では、凛の両親殺害の動機、凛自身の過去、凛を巡る薬やプロジェクトの存在、政宗の選択など、物語のすべてが集約される展開。
 『誘拐の日』は、単なるサスペンスではなく人間ドラマとしての色合いが強く、誘拐という極限状況の中で生まれる“偽りの親子”の絆を丁寧に描いていた。新庄政宗は、病気の娘を救いたい一心で誘拐に手を染めるが、悪人とは言い切れない複雑な人物像が印象的。七瀬凛は記憶を失っても聡明さを発揮し、ただの被害者に留まらない存在感を示していた。
 一方で、黒幕や陰謀の構図はやや定番的で、展開の読める部分もあったが、最終回にかけて伏線が回収され、満足感のある結末へと収束していく。特に良かったのは、政宗が“嘘の父親”を演じつつも本気で凛を守ろうとする決意を固める場面や、凛が自然に「お父さん」と呼ぶ瞬間であり、疑似親子の情が胸を打った。また、逃避行の合間にカップラーメンを分け合う日常的なシーンも温かく、サスペンスの緊張感の中に人間味を添えていた。
 結果として、謎解き以上に「親子の絆」や「正義とは何か」を問いかける余韻深い作品となり、視聴後に心に長く残るドラマだった。

■主な出演者の似顔絵集⇒http://www.ainet21.com/nigaoe.htm
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