【風・嵐】
●字典
あいの風(あいのかぜ)=日本海沿岸で、沖から吹く北寄りの夏のそよ風。あまり強くなくて涼しい風。かつて海上輸送の帆船が上りの順風として利用した。あい。あゆ(東風)。あえのかぜ。《季 夏》
青嵐(あおあらし)=5〜7月の青葉のころに吹く南風〔短歌・俳句などで〕初夏、青葉のころに吹く、さわやかな風。
青北風(あおぎた)=南風の多い夏に、夜間急に冷えて吹く北風。秋の近づきを告げる。
乾風(あなじ)=あなぜ、あなし、ともいう。冬に西日本で吹く強い北西季節風。あなじの八日吹き、といって、陰暦12月8日に荒れ模様になる事などがこの風の特徴。
油風(あぶらかぜ)=油まじ、油まぜ、ともいう。4月ころ吹く南寄りの穏やかな風。
いなさ=海から吹く南東ないし南西風。特に台風期の強風をいい、東日本、なかでも関東でおもにいわれる。
いぶき=滋賀、岐阜県境の伊吹山周辺に吹くさまざまな風の名。元は何日も吹き続ける風、居吹きの意。
岩おこし=広島県で3月頃吹く西風。
送南風(おくりまぜ)=盆の精霊(しょうりょう)を送ってから吹く南風。→まじ
おぼせ=淡路、伊勢、伊豆などで4月頃の日和の時に吹く南風。
颪(おろし)=山から吹き降ろす冷たい風で、滑降風の一種。主として太平洋側でいわれ、同種の風を日本海側ではだし、という。山の名をつけ筑波おろし、那須おろし、赤城おろし、六甲おろし、などと呼ばれる。冬の北西季節風は太平洋側でおろしの性質をもつ。
オロマップ=北海道の日高山脈の南麓に吹く強風。
貝寄風(かいよせ)=関西地方の春に吹く冬の季節風のなごりで、主として西寄りの風。陰暦2月22日に行われる大阪の四天王寺の聖霊会(ショウリョウエ)に貝製の造花を供えるが、この貝は貝寄風が難波の浦に吹き寄せた貝殻を使う事からきた。
神渡し(かみわたし)=神立風(カミタツカゼ)ともいう。陰暦10月(神無月)に吹く西風。出雲大社へ出かける神々を送る風の意味。
空っ風(からっかぜ)=冬の冷たく乾燥した強風で、日本海側から山脈を越えて関東平野へ吹き降りるもの。上州(群馬県)でよく使われる。
雁渡(かりわたし)=青北風(アオギタ)ともいう。雁が渡って行く初秋(9〜10月)に吹く北風。
下り(くだり)=日本海沿岸、特に北陸地方以北でいわれる南寄りの風。都(京都)より下るのに好都合な夏の季節風を意味する。逆は上り(のぼり)。
颶風(ぐふう)=〔「強く激しく吹く風」の意〕 熱帯地方に発生する、強い暴風雨の旧称。〔気象用語としては、風速30m以上の強風を指した〕
凩・木枯し(こがらし)=晩秋から初冬にかけての大陸からの季節風のはしり。木の葉を吹き落として枯木のようにする風。冬季の本格的な季節風に比べてあまり長続きはしない。気象用語として木枯らし1号などという。
ごさい=陰暦6月土用のなかばを過ぎる頃に、7日ほど吹く北東の風。6月16・17日に伊勢神宮の祭があるというところからいう。御祭風。
東風(こち)=春に吹く東の方から吹いてくる風。ひがしかぜ。春風。梅東風(ウメゴチ)、桜東風(サクラゴチ)、雲雀東風(ヒバリゴチ)、など時期に応じた名をつけて呼ぶ。《季 春》
鹿の角落とし=山口県で2〜3月の晴れた日に吹く南西風。
しゆたらべ=喜界島で梅雨の前に吹く湿気を含んだ南風。
西風(せいふう)=西方から吹いてくる風。にしかぜ。 寂しい秋の風。秋風。
高西風(たかにし)=関西地方以西で10月ころ急に強く吹く西風。
高嶺颪(たかねおろし)=高い山から吹きおろす、冷たい強い風。
だし=陸から海に吹き、船出に便利な出風(だしかぜ)の意味。日本海側では東または南風、東海地方では北風の事が多い。特に日本海側で多く用いられる風名で、6月を中心に4〜10月に吹く強い東または南東風をさす。山形県庄内地方の清川だし、新潟県北部の荒川だし、北海道後志支庁寿都(スッツ)の寿都のだし風などが有名。太平洋側でのおろしと同種の風。
たま風=たば風ともいう。冬に北日本の日本海側で吹く北寄りの風。
筑波東北風(つくばならい)=筑波山の方角から吹いてくる風。北東風。つくばおろし。
ならひ=ならい、ともいう。東日本の太平洋側で吹く冬の季節風。冬の卓越風は地方によって風向が異なり、北東風、北風、西風などさまざまである。
涅槃西風(ねはんにし)=陰暦2月15日の涅槃会(釈梼入滅の日の法会)のころに吹く北西季節風のなごり。彼岸西風(ヒガンニシ)、彼岸荒れ、などと同じ。
野分(のわき)=のわけ、ともいう。秋に吹く暴風。
野分の南風(のわきのはえ)=雨の少ない南の強風。
南風(はえ)=山陰、西九州地方でよく用いられる南風の呼名。梅雨の初めの黒い雨雲の下を吹く黒南風(くろはえ)、梅雨の最盛期の強い南風の荒南風(あらはえ)、梅雨明け後に吹く白南風(しらはえ、しろはえ)、などといわれる。
早手(はやて)=疾風とも書き、疾風(しっぷう)、陣風(じんぷう)、ともいう。寒冷前線の通過に伴う突風で、しゅう雨を伴う事もある。春の強風は春疾風(はるはやて)、春荒(しゅんこう、はるあれ)、春嵐(はるあらし)、などという。
春一番=春一(はるいち)ともいう。立春後に初めて吹く暖かい南寄りの強風。2番目、3番目をそれぞれ春二番、春三番、という。
ひかた=広く日本海側一帯でいわれる夏の南寄りの強風。北海道の小伍やオホーツク海沿岸でいわれるひかたは春の強い南風で、これはフェーンである。
ひばりごち=北日本の日本海側で寒い北西風が衰えて、次第に多くなる東からの風。少しずつ暖かさがましてヒバリがさえずりはじめる。
平野風(ひらのかぜ)=奈良・三重県境の高見山の西麓に吹く冬の強風。関東地方でいうおろしにあたる。
比良の八講荒れ(ひらのはっこうあれ)=琵琶湖西岸の白鬚神社(比良明神ともいう)では陰暦2月24日から4日間、延暦寺の衆徒が《法華経》8巻を読誦する法会があり、この法会を比良八講という。このころ寒気がぶり返し、比良山地から琵琶湖西岸へ吹き降りる強風を比良の八講荒れ、比良八荒(ひらはっこう)、などという。
風雨(ふうう)=風と雨。強い風を伴う雨。
風雪(ふうせつ)=風と雪。また、強い風を伴う雪。〔長い間の世の中のさまざまな苦労の意にも用いられる。
風前(ふうぜん)=風の吹いて来る所。―の灯び=滅亡寸前の例え。―の塵(チリ)=はかない物の例え。
風波(ふうは)=〔航海者や海岸沿いの住民の不安の基としての〕風と波。
風紋(ふうもん)=風が砂の上を吹いて出来た模様。
星の入東風(ほしのいりこち)=陰暦10月ころ吹く初冬の北東風。星は昴(すばる)の事で、冬の夜空に昴がよく見える季節になると天候が変わりやすくなる。明け方昴が没する時刻に吹きやすいという。中国地方や畿内の船人の事ば。
盆東風(ぼんごち)=夏の終わりに吹く東風。これが吹きはじめると天気が変りやすく、とくにこれが南東から南へ転じるとたいてい暴風雨となる。
真風(まじ)=まぜ、ともいう。瀬戸内地方から伊豆地方にかけて太平洋沿岸の各地で使われる。春から夏にかけての弱い南寄りの季節風。春の桜まじ、油まじ、盆の精霊送りの後の送南風(おくりまぜ)、などがある。
まつぼり風=阿蘇の火口原にたまった冷気が外輪山の立野から白川沿いに熊本平野へ吹き出す強風。春や秋に多い。まつぼりは余分、へそくりなどの意味。
山背(やませ)=本来は山を吹き越えてくる夏の東風の事で、フェーンの性質をもつ風。現在では北日本、特に三陸地方の初夏から盛夏にかけて、オホーツク海高気圧に伴って吹く冷湿な北東風をさし、凶作風として恐れられている。
アウストル(Austru)=ドナウ川の下流地域で吹く乾燥した西風。
アブロホロス(abroholos)=ブラジルの南東海岸で吹くスコール性の風。5〜8月に多い。
インバット(imbat)=北アフリカ沿岸の暑さを和らげる海風。
ウィリー・ウィリー(willy‐willy)=オーストラリア内陸部で発生するつむじ風。
エテジア(etesian)=地中海東部、特にエーゲ海一帯に夏季(6〜9月)に吹く北風。夏の乾季をもたらす風で、陸上の貿易風に相当する風系である。この風名にちなんで、夏は高温乾燥、冬に雨が降る地中海気候の事をエテジア気候という事がある。
カラブラン(karaburan)=中央アジア、特にゴビ砂漠周辺で春から夏にかけて吹く強い北東風。しばしば砂あらしを伴う。カラは黒い、ブランは雪あらし、の意で、白い雪あらしに対して黒い砂あらしを意味する。
コラ(colla)=フィリピンの強風。
サイクロン(cyclone)=インド洋の大規模な熱帯性低気圧。
サンタ・アナ(Santa Ana)=アメリカのカリフォルニア州南部サンタ・アナ地方に吹くフェーンを伴った北寄りの乾熱風。
シロッコ(scirocco、sirocco)=地中海北岸に吹く暖かい南または南東風。サハラ砂漠の熱帯気団が北上し、初めは乾燥しているが海を渡るうちに高温多湿(40℃以上になる事がある)となり、霧や雨、ときにはサハラ砂漠の砂塵を伴って吹く。この風は国や地域によっていろいろな呼名がある。
スコール(squall)=熱帯地方で、雷雨を伴って突然吹き出し、短時間で止む強風。
スホベイ(sukhovei)=中央アジアで吹く東または南東の乾熱風。6〜8月に多く、気温35〜40℃になり、この風が吹くと植物が枯れるといわれる。
スマトラ(sumatra)=マラッカ海峡の突風で、マレー半島とスマトラ島に吹く。4〜11月の南西モンスーン期、特に8月、また夜に多く、2〜3時間の強風と強雨をもたらし、陸に入ると衰える。
ソラノ(solano)=スペイン南部で吹くほこりっぽい東風。
タク(taku)=アラスカの南東部ジュノー付近で吹く東または北東の強風。
チヌーク(chinook)=ロッキー山脈東麓に吹き降りる西風で、乾燥したフェーン風。この風が吹くと気温が急上昇し、雪が溶けるのでスノー・イーター snow eater ともいわれる。
チリ(chili)=地中海中部・南部での北アフリカやアラビア半島の砂漠からの熱風。
バギオ(baguio)=フィリピンにおける台風の呼名。
ハブーブ(haboob)=アフリカのスーダンに吹く砂あらし。夏に多く、夏は南東風、冬は北風。砂漠上の高温な大気に相対的に冷たい大気が侵入し、強い対流現象が起こるために発生する。
ハムシン(khamsin)=カムシンともいう。エジプトで春に吹く南寄りの風で、大量の砂ほこりを運んできて、視程がきわめて悪くなる。この風が吹くと、非常に乾燥して暑く、不快感をおぼえる。また紅海に吹く南または南西の強風もハムシンという。
ハリケーン(hurricane)=北大西洋西部に吹く熱帯性の大旋風。
ハルマッタン(harmattan)=アフリカの西部、ギニア湾北岸からベルデ岬へかけての沿岸部に、冬季(11月〜3月)にサハラ砂漠から吹いてくる北東貿易風。乾燥した風で、風塵を伴う事が多い。しかし雨季の蒸し暑い風と異なり、非常に涼しく気持ちがよいので、健康によいと考えて、この地方ではドクター doctor とも呼んでいる。
パンペロ(pampero)=アルゼンチン、ウルグアイで吹き降ろす西または南西の突風。寒冷前線に伴って草原を吹きわたる。
フェーン(Foehn)=アルプス地方の北斜面を吹き降りる暖かい南風。現在では一般用語化し、山脈の風上側で湿潤断熱的に上昇し、冷却、乾燥し、風下側では乾燥断熱的に吹き降り、乾いた暖かい風になるものをフェーンと呼んでいる。
ブラン(buran)=シベリア、中央アジアで冬季に吹く北東の強風。地吹雪のため視程ゼロとなる。
ブリザード(blizzard)=アメリカ東部・中部における吹雪を伴った強風。アメリカの気象用語では風速14m/s以上、低温、視程500フィート(約152m)以下の状態をブリザード、風速20m/s以上、気温−12℃以下、視程ゼロの状態を激しいブリザード severe blizzard、と定めている。現在では一般用語化し、この種の暴風雪をブリザードという。
ヘルム(helm)=イギリスのペナイン山脈の西斜面を吹き降りる北東の強風。
ボホロク(bohorok)=スマトラのバリサン山脈を吹き降りるフェーン。
ボラ(bora)=ハンガリー盆地から山を越えてアドリア海の東岸に吹き降りてくる冷たい北東風。冬季、中部ヨーロッパおよびバルカン半島で気圧が高く、地中海の気圧が低いときに吹く。現在では一般用語化し、寒冷な突風を伴う滑降風をボラという。この場合、滑降の途中で断熱昇温しても、もともと寒冷な空気なのでさほど気温も上がらず冷たい風である。
ミストラル(mistral)=フランスのローヌ川峡谷を通り、地中海の北西沿岸、とくにリオン湾に吹き降ろしてくる北寄りの強風。冬から春に多く、冷たくて乾燥した風で、性質はアドリア海のボラに似ているが、ボラよりはいくぶん穏やかである。
ロンバルド(lombardo)=アルプスのイタリア側の斜面を上昇し、フランス側へ吹き降りる一種のフェーン。

●作例
東風吹くや山一ぱいの雲の影/漱石」 。
「襟につめたき春風は、筑波東北風か、富士南(=南西風)、吹雪厭うて来たりける/伎・三人吉三」。
青北風が通りの銀杏並木の葉を波打たせる。
風吹けば葉は風のままに騒ぐ 風の旋律
風が微笑みながら肌にひと吹き
風はりゅうりゅうと。

【詩歌用語】
≪風≫
「若葉風」青葉風。木の芽風。麦の風。黍の風。青田風。萩の風。松風。
「春一番」貝寄風。涅槃西風。彼岸西風。花つむじ。霾風。風塵。黄塵。東風。初東風。強東風。荒東風。朝東風。夕東風。東風雲。東風寒。東風埃。東風迅し。海東風。南風。大南風。貿易風。黒南風。土用風。夕立風。青北風。高西風。雁渡。北風。凩。時雨風。虎落笛。雪解風。神渡。初風。鎌鼬。
「天籟」山籟。爽籟。松籟。風籟。
「凪」初凪。小春凪。土用凪。朝凪。夕凪。夜凪。べた凪。油凪。海凪。沖凪。浦凪。磯凪。寒凪。霜凪。
「風」大風。強風。烈風。疾風。突風。旋風。小旋風。つむじ風。暴風。颶風。龍巻。台風。弱風。小風。軟風。微風。そよ風。朝風。夕風。夜風。小夜風。春風。秋風。薫風。涼風。湿風。暖風。熱風。寒風。冷風。朔風。凍風。空っ風。隙間風。追風。向風。廻風。通り風。時津風。上風。野風。山風。谷風。滝風。川風。沼風。池風。湖風。海風。磯風。浜風。浦風。潮風。沖風。沖津風。島風。
「風道」風筋。風並。風向。風上。風下。風表。風先。風生る。風起る。風湧く。風立つ。風和ぐ。風収む。風落つ。風渡る。風逃ぐ。風曲る。風孕む。風迷ふ。風光る。風死す。風少し。風絶ず。風吹く。風激し。風巻く。風しまく。風つのる。風受けて。風まとふ。風の中。風の色。風埃。風音。風の声。風見えて。風聞く。風鳴る。風の笛。
「野分」野分前。野分中。野分跡。野分後。朝野分。夕野分。野分晴。野分雲。野分波。
≪嵐≫
「嵐」初嵐。春嵐。青嵐。夏嵐。麦嵐。黍嵐。芋嵐。朝嵐。夕嵐。夜嵐。大嵐。山嵐。
≪颪≫
「颪」山颪。峰颪。岳颪。島颪。鮭颪。斑雪颪。雪解颪。比良颪。息吹颪。筑波颪。
戻る